1.業界団体の登場
1998年は、日本でインターネットの商用利用が始まって5年目になります。
世帯普及率10%、インターネット広告費114億円という規模で、インターネット広告が急成長し先行する、アメリカのトレンドが数年後に日本に入ってくるという状況でした。
インターネットの特徴はメリットでもありますが、広告ビジネスとして定着させるためには、従来とは異なる考え方や対応が必要でした。いかに健全に発展させ、広告市場を支えるビジネス基盤をどう作るか、アメリカのビジネスモデルをどう取り入れて日本国内の環境に合わせるか、といった業界共通の課題がありました。個々の企業では解決が難しい課題に対応するため、1999年に、インターネット広告ビジネスに関わる企業74社で、非営利団体の業界団体が設立されました。
2.共通の4課題
1)技術環境
立ち上がって間もなかったインターネットメディアやインターネット広告ビジネスは、通信回線の速度やOS、webブラウザーなどのユーザー環境やアドサーバーの技術などに影響を受けやすく、予測できない問題が起こることもありました。安定したビジネスのためには、常にテクノロジーの変化や進化に合わせた対応が必要でした。
2)日本独自の広告取引の慣習
● 詳細な広告掲載契約を交わす商習慣がない
● 広告会社の報酬がメディアコミッションである
● 金銭的なリスク負担機能
● 第3者による広告メディア監査がない
● 独自の会計基準 など
3)マス媒体と異なる広告取引の構
インターネットメディアの特徴はインターネット広告の強みになる反面、煩雑でわかりにくいという問題を解決する必要がありました。
● 需給バランスが崩れる可能性
● 考え方の違いや用語の違いによるビジネス上の行き違い
4)法規制や自主規制のあり方
「公正で自由な競争を制限したり、阻害しない」「消費者を欺いたり、だましたりしない」といった法原則は同じですが、具体的な法制度や規制の枠組みは各国で異なります。多くのアメリカ企業の国内市場の参入、異業種からの参入なども多く、インターネット広告業界の基準の制定/啓発が必要でした。
3.役割
業界団体の役割
業界全体で協調して対応すべき領域について、会員の広告事業主が自ら協議・検討し、合意を図りながらルールを決めて方向性を示していくこと。また、業界の各種施策を啓発して理解を促し、適切な法的/社会的ルールが作られるようにする。 など
団体が定める自主ルールは、大きくわけて2つあります。
■事業者間のビジネスを円滑にするための標準化ルール
前述の課題1から3を解決するためのもの。
ビジネスの標準化から、広告入稿のトラフィックマニュアルの作成、ユーザーデータ項目の標準化など。最近の課題である運用型広告の増大に対し、業務プロセスやサービスレベルに関する基本ガイドラインも定めている。
■法令順守を前提にした最良慣行を示す指針
設立初年度に、業界の基本方針となるガイドラインを策定。さらに関係法令の整備前からテーマごとのガイドラインを検討し、策定。最近問題になっている広告掲載先の適正性に関してブランドセーフティーガイドラインも定めている。
4.自主基準と社会的責任
以下は自主基準の根拠となっているものです。
1)広告の責任の所在
2)虚偽誇大広告の禁止
3)広告表現の自由と関係性の明示
業界団体の自主ルールに拘束力はありませんが、業界の合意に基づいて定めた自主ルールを指針として、各社それぞれが自主的に取り組むことにより、適法性だけでなく法令外の倫理性も含めた社会的な合理性/適正性が確保されます。
業界団体が設立されてから20年がたち、インターネット広告市場は2兆円にも届く規模に拡大しました。グローバルで変化の速いインターネット広告において、国内の法規範や慣習をふまえ、民間レベルでの国際連携も図りながら、業界全体で取り組むべき施策を迅速かつ効果的に行っていくことが大切です。今後も、この業界団体が担っていく役割は大きいでしょう。