「一体何が起こっているの?」という方に簡単に説明しますと、日本の公正取引委員会がGoogle、Yahoo、フェイスブックなど広告のプラットフォーム企業に対し、独占禁止法違反じゃないの?という指摘をしますよ。その内容が2021年3月にもまとまりますよ。とのことです。 今回は、指摘した内容と今後の展開についてお伝えいたします。
公正取引委員会が大手ITに指摘
ニュース記事を確認しましたところ、2021年2月17日、公正取引委員会がインターネット広告の取引実態に関する最終報告書を公表しました。Googleなど巨大IT企業は取引上優位な地位にあり、取引条件の一方的な変更や競合他社との取引制限などがあれば、独占禁止法違反の恐れがあると指摘しました。また、消費者に十分な説明をせずに個人情報を集め、広告配信に活用した場合には、優先的地位の濫用にあたる可能性があるとの見解も示しました。
また、クリック数などが多ければ多いほど、そのサイトが高い評価を受け、デジタル広告の価格が上がる実態にも言及。
利用者の関心などに応じて表示する「運用型」が8割で、検索結果に連動した「検索連動型」とニュースや動画のウェブサイトなどに掲載される「ディスプレー型」に大別される。運用型の他には、広告をあらかじめ決まった枠に表示する「予約型」などがあります。と伝えられています。
広告の配信に影響はあるの?
ターゲティング広告やリマーケティング広告に関しては、変化が求められそうですがその他の機能については今のところ影響はなさそうです。
ターゲティング広告に影響のある「個人情報を集め、広告配信に活用」という点において、アップルやGoogleが打ち出したcookieなどを使った個人情報の取得を制限する方針に沿った内容です。日本でも個人情報については、世界基準に合わせましょうという流れではないでしょうか。
少し専門的な話ですが「safari11.0」から「Intelligent Tracking Prevention」という機能が搭載され、サイトをまたがって追いかけるトラッカーを特定し、トラッキングデータを削除するようになりました。そしてその後「Safari13.1」からサードパーティCookieがデフォルトでブロックされるようになりました。Googleも2022年にはChromeからサードパーティCookieの利用を廃止すると宣言しています。
世界的にはすでに動きのあった事柄を、公正取引委員会が日本での規制を明確化するために、改めて指摘したという感じでしょうか。ユーザーの属性を参考にした広告は本格的に変化が求められそうですね。
Googleが独占禁止法に抵触?
Googleが独占禁止法に抵触しているかのように見える内容ですが、そうではありません。
「取引条件の一方的な変更や競合他社との取引制限」についてとあり、どのように解釈され、どの機能がそれに抵触するのかが明確ではないので、なんとも言い難いところです。
公正取引委員会も、「取引条件の一方的な変更や競合他社との取引制限があれば、独占禁止法違反の恐れがある」と言っているのですが、これはGoogleや巨大IT企業に限らず、どこの企業でも同じことで、「あれば」が「どの部分」を指しているのか、現時点ではぼんやりしていますね。
対象となっている企業は「取引上優位」な立場にあるので、「それを良いことに無茶なことを言わないでね」と、あらかじめ伝えていると捉えて良いのではないでしょうか。
世界的な個人情報に対する規制強化
EUで2016年4月に制定された「GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)」が2018年5月25日に施行されたことを皮切りに、2017年にアップルが「Intelligent Tracking Prevention」を発表。そして2022年までにGoogle ChromeにおいてもサードパーティCookieを排除するとのことで、WEB上での個人情報のあり方が変わってきました。
その点、日本はITにおいて遅れをとっています。
文中にもありましたが、「クリック数などが多ければ多いほど、そのサイトが高い評価を受け、デジタル広告の価格が上がる」などと書かれており、誤解を招く表現になっています。
正しくは、「広告に連動させるキーワードがオークション制になっていて、人気のキーワードは、1クリック当たりの価格が上がる」というのが実態です。
また、「利用者の関心などに応じて表示する「運用型」が8割で、検索結果に連動した「検索連動型」とニュースや動画のウェブサイトなどに掲載される「ディスプレー型」に大別される。」とありますが、この書き方では、運用型である広告の8割が個人情報による規制の対象であるような印象を受けます。
正しくは、「『運用型』が8割で、検索結果に連動した『検索連動型』とニュースや動画のウェブサイトなどに掲載される『ディスプレー型』に大別されるが、利用者の情報を利用したターゲティング広告はその中のごく一部である」と、事実を伝えて欲しいと思います。
プラットフォーム企業は、広告という表面的な部分だけではなく、ブラウザの開発から導入シェアの向上、広告配信枠と報酬の制度、そして唯一無二とも言える検索エンジンの開発と改善を行い、これらの企業努力をもとに、現在の「取引上優位」な立場に立っています。
私たちは「無償」でとても便利な検索結果を得ていて、その対価を「広告」という形で広告主が負担しています。これほどユーザーにとってありがたい仕組みでありながら、「検索やSNSなどのサービスを無料で提供しているが、それと引き換えに個人情報を集め、ネット広告に利用して自らの収益につなげている。」など「巨大な悪を討伐する」ようにメディアで表現されているところが「IT後進国らしい表現」という気がして、恥ずかしさすら感じてしまうのです。
高齢の政治家が多く、年功序列の風潮が強い政府がIT先進国と肩を並べられるくらい見識を深め、ピントの合った意思決定をするのはいつの日になるのでしょうか。