1.広告配信と品質課題
まずは、これまで見てきた広告配信と品質課題の相互関係を見てみましょう。
配信される中にはアドブロックされる配信があり、残りが全体の配信数です。
この配信数から「広告のインプレッションとしては無効なトラフィック=IVT(Invalid Traffic)」を除いたものが、広告主に報告されるべき適切な配信数になります。
このIVTには2種類あります。インターネット上では通常のトラフィックではあっても広告配信としては適切ではない「各サイトの情報を集めるための正当なクローラーなど(General-IVT)」と、「アドフラウドの可能性が高い作為的にトラフィックを発生させていると疑われるIVT(Sophisticated-IVT)」です。
さらにビューアブルインプレッションの中でも、その定義から「ノンビューアブルインプレッション(人によらないIVT)」を除外することになっています。
IVT、ビューアビリティ以外の課題は、ビジネス上だけではなく消費者/ユーザーや社会に対して影響があるものです。これらを社会への影響という視点で考えてみると、上図のように分けることができるでしょう。
2.新たな課題
新たに登場してきた品質の課題は、「どんな広告が、どんな場所にどういう形式で掲載されるのか、広告主/媒体社にも事前にわからない」という、いわゆる運用型という新しい形態が登場したことも原因の1つでしょう。お互いの素性を知らずに純粋に効率や金額でマッチングするというという取引は、性善説に立てば合理的ですが、悪意を持って参入してきた場合に排除するのは難しくなります。
運用型に伴う課題は、以前から認識や議論はされてはきていましたが、市場全体で必ずしも十分に認識されていたとは言えません。問題が浮上したり、企業が声を上げるようになり、少しずつ認知が広がって行きました。
3.リスク管理
このような新しい課題に対して、インターネット広告業界が放置をしていたわけではなく、さまざまな取引方法を提示することでのリスク管理の努力もされています。
①オートメイティッドギャランティード(Automated Guaranteed)
プログラマティックのカテゴリーには入るが、運用型には含まれない。
予約型広告の煩雑な作業を自動化によって効率化したもの。ホテルや航空券の予約を、電話やメールなどの人を介するのではなく、webサイトやアプリで空き状況と価格を見ながら予約するのと同じ仕組み。
②プリファードディール(Preferred Deal)
オークションが前提のオープンマーケットプレイスやPMP(プライベートマーケットプレイス)に対して、単価が固定金額。
③プライベートマーケットプレイス(PMP=Private Marketplace)
市場への参加者を特定の事業者だけに限定する。
④オープンマーケットプレイス(Open marketplace
売り手と買い手を限定しない自由な取引。
手売り(Hand Picked)
売り手と買い手が相対で取引を決める予約型広告。
価格の高い空室や空席が、一般に開放された管理画面に表示されずに「お問い合わせ」とされるのと同じ仕組み。
アップフロント(Up Fronts)
プレミアムな広告枠を先行販売するもの。
このように、広告主ごとの品質とリスクの考え方の違い応じて、さまざまな選択肢があります。
4.世界での品質向上の取り組み
品質向上への取り組みとして、欧米では業界横断組織が作られ、厳しい基準を策定/運用するなどの対応が進んでいます。また、イギリスでは単一に、アメリカでは、こういった業界横断組織がさらに課題別に作られています。
日本でも主要な3団体が中心となり、イギリス、アメリカの関連組織と連携して、課題の認識や現状把握、原因の分析、対策の立案や啓発などが行われています。
5.成熟に向かうインターネット広告
これまでにも、インターネット広告の品質課題に関してはさまざまな努力が行われてていますが、ブランドを重視する広告主が本格的に参入するようになり、これら取り組みへの社会的関心や注目が集まるようになってきました。
いま、インターネット広告業界に求められているのは、インターネットにおける自由や平等といった利点を守りながら、消費者の保護や広告主が安心して広告活動することができる環境の提供です。さらに、インターネット広告が社会全体の情報流通やコミュニケーション、消費活動の一端を担っていることを再認識して、それが正しく機能するような取り組みの上に、啓発していく、ということも大切です。
マスメディアであれ、インターネットメディアであれ、それぞれプラス/マイナス面が存在します。情報を送る側、受け取る側それぞれが、開かれた相互関係を作っていくことが、今後ますます大切になってくることではないでしょうか。